1月2日 高遠風音の初夢

  

 他人の視界を覗き見る。
 そんな気味の悪い異能を持て余していた。
 だって、八歳の女の子にそんなもの、必要なかったのだから。精々で隠れ鬼では負け知らずになったくらいで、それも同級生達から余りにつまらないと言われて誘われなくなってしまったし。
 最後に隠れ鬼をしたのは、実弟とだったか。
 あの家で最後まで家族でいてくれたのはあの子だけだった。もしかしたら、あの子の心さえ信じていれば、風音は家族に帰ることが出来たかも知れない。『もし』なんて考えてみるだけ虚しくなるから、目を逸らしてきたけれど。なにより、そんなことを思ってしまうこと自体、今の家族や仲間への裏切りになるような気がしていた。


「風音は昨夜、どんな夢を見ましたか」
 朝食の席で突然に問われ、少し考えるふりをして「あまり覚えていません」と答えたら、養父はにこりと微笑んで、よく眠れたようですね、などと混じり気のない優しさを返してくれる。
 はっきり覚えていないのは本当だ。本当だけれど、本当の本当は少しだけ嘘を織り交ぜた。大切な人との朝食に、無粋な夢の話なんて要らない。
「李さんは初夢に何をご覧になったんです?」
 風音も同じ質問をしてみた。正直彼の初夢に興味があるというわけではなくて、ただ問われたからには養父の夢に無関心であるわけにもいかなかったから。
 李は先程の風音と同じように少し考える素振りを見せて、「いつもと同じですね」と語り出す。
「我々が安心して暮らせる世界の夢です。気味が悪いから、他と違うからと異能者が迫害されることのない国を、我々の手で立ち上げる夢。もちろん風音も私の隣にいてくれましたよ。No.2もNo.3もNo.4も、懐刀(ダガー)も、建国の祖として誇らしげに笑っていた」
とても幸せな夢でした。そう語る李の心底嬉しそうな顔が風音は好きだった。
「夢では終わりませんよ」
 力加減を間違えたら割れてしまいそうなほど薄く、繊細な柄が描き込まれたティーカップを口元へ運びながら、夢へと思いを馳せる李を現実へと引き戻す。風音の口調がいつになく強いことに、李は気づいただろうか。
「李さんの夢は必ず叶えてご覧に入れますから」
 ミルクを入れようか迷ったけれど、ストレートのままで正解だった。爽やかな渋味が心地よい。
 李は呆気に取られたような顔をしていて、珍しいものを見ることができたと内心満足していた。風音の意志を感じ取った李はすぐ表情を改めて、「頼もしい限りです」と目を細めた。

 彼の夢は尊い。
 だから、この席で風音の夢の話なんて、開けっぴろげにする気はない。

 ――本当の本当は。たくさんの同胞の地獄のような最期を、夢の底で見た。
 彼らの思いを背負うのは、この千里眼を抱く風音だけでいい。

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