第13話 碧

 逃げてきたままの検査着から地味な夏服に着替えて出てきた亨に、正はキッチンから、「服のサイズは合ってるかー?」と気の抜けるような声でのんびりと訊ねた。
 亨も「うーん」と普段通りの調子で答える。
「靴ある?」
「ああ、用意しておいた。靴擦れしてただろ、消毒しようか?」
「……いい、もう治ってきてる」
 亨は足に目をやって答える。
 先ほどまで皮が剥けて鈍い痛みを感じていた足首の裏は、今では少し赤みが残るだけになっている。
『昔から傷の治りは人より早いと思ってたけど。これが、結晶化の影響だったのかなぁ?』
「『結晶化はSn細胞の自己保存のために起こる現象である』っていう、あの女の子の話? ボク、よくわかんなかったけど」
『いや、お前が起こしてる現象だろ…… 便利だから別にいいけど』
 亨は頭の中の声に呆れつつ、ダイニングに戻る。テーブルの上に大きめの握り飯が用意されていた。
「食っとけ、すぐに追っ手が来る。メシ食ってる時間なんてなくなるぞ」
「うん。……でかいな」
 椅子に腰掛けると、亨の拳よりも大きな握り飯を手に取ってかじりつく。
 正はその様子を見ながら訊ねた。
「今までお前の能力で『学習』したのはどんな能力だ?」
「誘拐されるときに使われた、身体から薬物を放出する能力と、他人に化ける能力、施設で話をしてくれた女の子が使ってた、人の心を読む能力、それに、同級生が見せてくれた、血を固める能力と、俺を見つけた隊長さんの、他人の能力を読み取る能力。今のところその五つ」
「完全に再現できるのか?」
「いや、薬物は掌から放出するのがやっとだし、他人に化けるのも顔と掌を変化させるのが精一杯だった。逃げ出したときは、入れ代わった女と背丈が同じくらいだったから白衣で身体を隠せばなんとかなったけど。他人の心を読む能力は、たぶん相手と百メートルも離れたら使えない。血を固める能力は、今のところこんな具合」
 亨は指先から、爪楊枝ほどの細さの針を作り出してみせる。
 明らかに武器としては使えないそれを見て、正は盛大に溜め息をついた。
「まあ、まだまだ未成熟な〈結晶〉だからな。再現率もそんなに高くはないってことか」
「……なんか、ごめん」
「いや、結晶化はあまり進みすぎるとかえって問題だ。お前はそのままでいいんだよ」
 亨がなんとなく申し訳なくなって謝罪すると、正は首を横に振った。
 亨は首を傾げる。
「かえって問題、ってどういうこと?」
「……父ちゃんが仕えていた『ある御方』な、脳細胞の結晶化が進みすぎて、最終的に脳全体が結晶化してしまった。その結果、その『御方』はSn細胞が存続するための手段と成り果ててしまわれた。つまり、Sn細胞の永遠の宿主、不老不死者になってしまったんだ」
「……ふろうふしっ?」
 亨はちょうど悪くその単語を聴いたタイミングで、よく噛まずに米を飲み込もうとしたために、うまく嚥下できずに咽せた。
「おいおい、大丈夫か?」
 正が呆れたように急須の緑茶を注いで手渡す。
 亨はそれを少しずつ飲み、喉につまっていた米をゆっくりと食道に落とし込んでいく。
 ようやく落ち着いたところで、亨は訊ねる。
「不老不死って、死なないし歳もとらないっていうアレ?」
「ああ。詳しい経緯は言えないが、その『御方』は四百年は生きていらっしゃるらしい。あ、その『御方』のこと、オレが喋ったっていうのはここだけの話な。超重要機密なんだ」
「言わないけど…… 不老不死って、俺もそうなっちゃうの?」
 亨は不安を覚えて訊ねる。
 それに対して、正は安心させるように笑って首を振った。
「まだお前の〈結晶〉は成長しきっていない。せいぜいちょっとの怪我をしてもすぐ治るって程度だろう」
 亨は靴擦れの件を思い出して、その程度か、と安心しかけた。
 しかし、そう言った次の瞬間には、正は真剣な目をして続ける。
「ただし、これから結晶化が進んで、臓器の一部になってしまえば、おそらくお前も不老不死者となってしまう」
「……そうならないためには、どうすればいいの?」
「できる限り安全に生きろ」正は亨の目を真っ直ぐに見て言った。
「SLWに残るというのなら止めん。しかし、ハイスクールを卒業してSLWに入って戦闘員になれば危険が付きまとうだろう。生命の危機に直面するかもしれない。生命の危機はSn細胞の結晶化を促進する。結晶化は不可逆的だ、一度進行したらもう戻れない」
 亨はごくり、と唾を飲み込む。今までも安全に暮らしてきたが、それが自分にとっては他人とは別の意味で重要で、いかに幸運だったか思い知った。
「わかった」
 亨はそれだけ言った。しかし、「安全に生きろ」という忠告に素直に従うことは、心のどこかが拒否していた。亨にもそれがどうしてなのかは、よくわからなかった。
 黙り込んでしまった息子を、正はしばらく見守っていたが、張りつめていた意識の端に不穏な動きを察知した。
 ――家の前に、一台の自動車が止まった。
「……亨、最後の一口、早く食っちまえ。そろそろ限界だ」
「え?」
「敵さんがお出ましだ」
 亨はそれを聞いて、握り飯の最後の一口を慌てて口に押し込んだ。
 正は勝手口へと亨を誘導する。そこには先ほど話していた、亨用の真新しい靴と、父親のよれよれのブーツが並んでいた。
 それに手を伸ばしたとき、玄関のチャイムが鳴った。
 亨は玄関の方を振り返る。
「大丈夫?」
「安心しろ、足止めは用意しておく」
 亨が「足止め?」と訊ねると、正の背後に人影が生まれた。
「え、うわ……っ!?」
「静かにしろ、ご近所迷惑だろ!」
 この状況でご近所さんを思いやる必要性が全くわからなかったが、亨は口元を正に押さえ込まれた。
 人影をよく見ると、白いTシャツにがばがばのジーパンの大柄な男が、亨に歯を見せて笑っている。
 それはどこからどう見ても、目の前にいる父親だった。
「親父が、二人……? ムサい……」
「……お前、この状況で結構な余裕があるじゃねえか」
 正が呆れたような、若干傷ついたような顔をして、新しく生まれた正に命じる。
「ここで敵さんを足止めしてくれ。頼んだぞ」
「任しとけ」
 もう一人の正は玄関へと向かっていく。
 正は亨を抱えるようにして勝手口から出て行く。
 勝手口を出ると、そこは山の斜面で、草木が気ままに茂っていた。
「行くぞ、走れ」
「うん」
 亨が先を行き、正が後ろを振り返りながらそれに続く。
 亨は足もとの悪い中を走りながら、気になっていたことを後ろの正に訊ねる。
「なあ、親父の能力って……」
「ああ、見ただろ、お前の考えてる通りだ」
 正は口の片端をつり上げて笑った。
「オレは『ドッペルゲンガー』の能力者。自分を好きなだけ量産できる」
 『学習』できるならしてもいいぞ、と軽く言われて、亨は「そんなに簡単にできることじゃねぇんだよ」と言い返す。
 二人は山を駆け上っていった。

   ❃ ❃ ❃ ❃ ❃ ❃ ❃ ❃

「あ? 親父しかいない? 家のどこにも隠れてないんだな?」
 №4は苛立たしげに通信端末に向かって問いただす。
 同じ部屋では、 懐刀(ダガー)が短剣を抱えてことの成り行きをつまらなさそうに眺めていたが、部屋に入って来ようとする少女の気配を感じて、ドアの方に目をやる。
 ドアが音もなく開き、制服姿の風音がスクールバッグを抱えたまま入ってきた。
「おう、 千里眼(クレアヴォイアンス)。お前らしくもないポカをやらかしたそうじゃねぇか」
 風音は懐刀に目を向けたが、彼女を馬鹿にした言い草には取り合わず、「遠方からお疲れさまです、懐刀」と口先だけで労った。
 サポートを務める№4に状況の説明を求める。
「№4、状況は?」
「キミの言っていた家にはいなかったらしい。残ってたのは父親だけだ」
「移動したのかもしれません、視てみます」
 風音が右目を使って、亨の意識を読み取る。
 №4が固唾をのんで見守った。
「……佐倉亨は父親と一緒に、勝手口から山に逃げました。家にいるのは父親の能力で生み出された身代わりです」
 風音がそう言うと、№4は「クソッ」と口汚く呟き、通信端末に裏山を捜索するよう指示を飛ばす。
 風音はルートを説明しようとするが、山のなにを目印に伝えればいいのか見当がつかず諦める。
「№4、佐倉亨の奪還に派遣している部隊は、これから三十分以内に佐倉亨を発見できなければ撤退するように命令してください」
 №4が不審げに風音を見やる。「どういうこと? 諦めるの?」
「まさか。私が出ます。彼らは山に隠れるつもりです。追いかけて見つからないのなら、私が直接先導した方が早い」
 風音の説明に、№4はすぐに首を振る。
「それはダメだ、危険過ぎる。千里眼は戦闘には向かない。現場に出すなんて無茶だ」
「いいんじゃねぇの? お嬢さん張り切ってるみたいだし?」
 懐刀が面白がるように言う。
 №4がそれを睨みつける。
「懐刀、アンタは黙っててくれないか。……千里眼、少し落ち着いて」
「私は落ち着いています。№4、佐倉亨に武器になるような能力はありません。父親の方も、自分の分身を作り出せるというだけで、恐れるほどではないでしょう。私の能力は確かに戦闘には向きませんが、№1から一通りの訓練は受けています。素人相手なら、何とかなります」
 迷いのない千里眼の言葉に、№4はたじろぐ。
 風音は懐刀に向き直ると、傍観者を決め込んでいた彼に仕事を申し付ける。
「懐刀、貴方はここのメンバーが脱出するのを見届けた後、私のところに応援に来てください。ここはSLWと戦闘になるかもしれません。貴方の戦力が必要です」
 懐刀は「はいよー」と気の抜けるような返事をする。
 №4は部屋を出て行こうとする風音を呼び止める。
「なんです、№4? 止めても私は行きますよ、№1からここを任されたのですから」
「それを言うなら僕は君のサポートを任された。僕も佐倉亨を追う」
 ここにいても大して役には立たないしね、と付け加えると、風音は眉をひそめた。
「貴方には、ここの陣頭指揮を執っていただきたかったのですが……」
「僕じゃなくても、№3がいるだろう。痕跡を残さないようにとさえ指示しておけば僕たちがいなくても問題はないよ。懐刀がSLWの相手をしてくれるならね」
 №4が懐刀に念を押すようにそう言う。懐刀は小さく鼻で笑っただけだった。
 風音はしばらく迷っていた様子だったが、やはり一人で追いかけるのは心もとなかったのであろう、「では、ついてきてください」と頭を下げた。
 ドタバタと、部下を伴って№3が駆け込んでくる。
「千里眼、戻ったか! 貴様、こちらは大混乱だったというのに……」
「№3、ここの陣頭指揮は貴女に任せます。一切の証拠を消して、ここから全メンバーとともに脱出してください。SLWの処理は懐刀に任せてあります」
 風音が静かにそう言うと、№3はきょとんと目を丸くさせる。
「え…… 私が、陣頭指揮?」
「そう言いました。できますね?」
 有無を言わせない風音の圧力に、№3はこくこくと頷く。
 風音は№4を従えて、№3と入れ代わるように部屋を後にする。
 ぼうっとした様子の№3と、口元に笑みを浮かべる懐刀が、部屋に残された。

   ❃ ❃ ❃ ❃ ❃ ❃ ❃ ❃

 風音たちが施設を後にするのと入れ違いに、堤下一等率いる捜査班は、加納由紀治の別荘に到着していた。
 堤下一等は別荘を一見して、「特に異常は見当たらないが……」と呟いた。美雪も無言でそれに同意する。
 そのとき、どこかでエンジンのかかる音が響いた。
 堤下は自分たちの失態に気づく。
「違う、裏口があるんだ!」
 堤下は別荘の見取り図を放り捨てて走り出す。
 班員も、見取り図には描かれていない裏口の存在に思い至り、堤下に続いた。美雪は長谷川を連れて行くべきか迷ったが、むしろ長谷川の方が先に走り出したので、慌ててそれを追いかけた。
「長谷川さん、安全が確認できるまで待っていてください!」
「お嬢ちゃん、それじゃここまで来た意味がないだろう」
「……じゃあせめて、私の後ろについてきてください」
 美雪はそう言って、少し遅れて班員たちを追う。長谷川がそれに続いた。


 堤下たちが別荘の裏手、車道より少し高くなった空き地に駆けつけたとき、二台のトラックのうち一台が眼下を走り去っていった。
「クソッ!」堤下が車道に下りようとしたとき、班員たちの目の前が真っ暗になった。
「……ッ!?」
 戸惑う班員たちの耳に、男女の声が届いた。
「視界を奪うとは便利な能力だな。是非研究させてほしいものだ」
「小娘のモルモットになる趣味はねえ」
 若いという意外あまり特徴のない男の声と、落ち着いた、そしてどこか少女のような無邪気さを感じさせる女性の声に、班員たちは戸惑う。
「全員、無事か!」
 堤下がいち早く冷静さを取り戻して問いかけるが、班員は突然視界を奪われたことに混乱し、答える余裕はない。
 堤下は唇を噛んだ。
(目に関する能力、おそらくこれが……)
「オレはユーリ・クズネツォフ。お前らを殺す男の名だ。……冥土の土産にしろ」
「……!!」
 班員たちが更に動揺する中、堤下の首元に潜り込んできたユーリの短剣が突き立てられ――

 カツンッ

 ――突き立てられようとした瞬間、しかし、それは硬質な音とともに防がれた。地中から赤い螺子が飛び出し、その短剣を弾き飛ばしたのである。
「……」
 ユーリが振り返ると、遅れて到着したために視界を奪われることを免れた美雪が、端正な顔で敵を睨みつけていた。
 目を覆って踞る班員たちを目の前にして、美雪は詰問する。
「彼らになにをしたの?」
「なんだ、まだ残ってたのか」
「答えなさい!」
 美雪の周囲の地面から、赤い螺子がいくつも生まれ、ユーリに向かって飛び出していった。
 ユーリは危なげなくそれを躱す。
 事態を見守っていた№3が、「私はここにいない方がいいか?」と、この状況に不釣り合いに落ち着いた声でユーリに訊ねる。
 ユーリは「巻き込まれて死にたくなければ」と視線も向けずに答えた。
 №3は黙って頷き、空き地を下っていった。
「さて、どうしようか。他の連中のように視界を奪うってのは芸がないな……」
 ユーリは値踏みするように美雪を見る。
 美雪はそのゴーグルの下で、碧い燐光が輝いているのを視認した。
「貴方が〈碧の瞳〉?」
「センスのない連中にはそう呼ばれているな」
 ユーリは他人事のように答えた。
 堤下が叫ぶ。
「恩田準一等、無事か!? 逃げろ、戦闘には持ち込むな!!」
「五月蝿い」
 ユーリは鬱陶しそうに堤下に目を向けると、堤下は目を押さえて唸りながら倒れ込んだ。
「堤下一等!?」
「が、眼球が…… 焼ける……!!」
 美雪はそれを聞いて、瞬時にユーリに螺子を振りかざした。
(本体を叩くのが定石……!)
 不規則的にうねりながら自分をめがけて襲い来る螺子を、ユーリは短剣で打ち払いながら躱してのける。
 美雪は歯痒く思った。
(どうして当たらないの……!!)
「決めた」
 ユーリはぱちんと指を鳴らして呟いた。
 それと同時に、班員たちはうめき声を挙げて倒れ込み、動かなくなった。
 美雪は目を見開く。
「心配すんな、眠らせただけだ。……お前はなかなかやるらしい。折角日本(ヤポーニア)まで来たんだ、遊び相手になれ」
 ユーリはそう言い終わらないうちに、美雪に斬り掛かってきた。

   ❃ ❃ ❃ ❃ ❃ ❃ ❃ ❃

「ベル!」
 古い、今では誰も使わなくなった愛称で呼び止められ、№3――アルベルティーナ・クラインミヒェルは振り返った。
 人相の悪い男が、強張らせた顔で彼女を見ている。
 アルベルティーナは、まるで少女のように無邪気に微笑み、彼の名を呼んだ。
「クニヒコ! 久しいな!」
 長谷川邦彦は、彼女に近付こうとするが、彼女の部下たちが銃口を向けるのを見て踏みとどまる。
 しかし、アルベルティーナは部下たちに命じた。
「おい、撃つなよ。彼の頭脳は世界の宝だ、こんなところで失われてはいけない」
 部下たちは戸惑ったように顔を見合わせるが、銃口は長谷川に向けられたままだった。
 アルベルティーナは不満げに溜め息を吐く。
 長谷川は彼女に問うた。その声は、今にも泣き出しそうな子どものように頼りないものだった。
「ベル、どうして…… なんでよりによってビッグ4なんかに……!」
「仕方がないだろう、私はここでしか研究できなくなったのだから」
 アルベルティーナは首を傾げた。
「お前が悲しむ必要はないだろう? 私も研究を続けている。お前も健在だ。それでいいではないか」
 長谷川は力なく首を振る。
「いいわけがない。アンタの頭脳はビッグ4なんかに利用されていいものじゃないんだ……」
「……?」
 アルベルティーナは、本当に何もわかっていないという風に首を傾げた。
 長谷川は思う。彼女はいつもそうだった。彼女は研究さえできればそれでいいのだ。倫理や道徳に悪い意味で縛られない、無邪気過ぎた。反倫理的というより、倫理というものが存在しなかったのだ。だから誰にも彼女を理解できなかった。彼女を敬愛する、長谷川にすらも。
「……クニヒコ、どうしたんだ?」
 アルベルティーナは何も言わない長谷川に問いかける。
 長谷川は、唸るように訊ねた。
「もし、オレが」
「え?」
「……もし、あのときオレがアンタを弁護していれば、アンタは追放されずに済んだかもしれない。日の当たる場所で、その才能を世に知らしめることができたかもしれない。オレのせいだ、オレに、勇気がなかったから……」
「それは違う」
 きっぱりと否定したアルベルティーナの言葉に、長谷川は首を上げる。
 アルベルティーナの微笑みは、母親のもののように慈愛に満ちていた。
「クニヒコ。あそこは私には眩しすぎたんだよ。サリヴァンもカンザキも。どうやったってわかり合えなかったんだ。だから、お前のせいじゃないよ。私を庇う勇気なんて、そんなもの、必要なかったんだ」
 アルベルティーナの後ろに、新しい人影が現れる。
 彼女の耳元で何事かを囁くと、アルベルティーナは頷いた。
「もう時間らしい。会えて嬉しかったよ、クニヒコ。あのときも、今も、追いかけてくれてありがとう」
「ベル……っ!!」
「ここを任されているんだ。もう行かなければ。……ああ、懐刀には気をつけろよ、落ち着くまで隠れていた方がいい。研究者が目をやられたら一大事だからな」
 じゃあな、と、まるでまた近いうちに会えるかのように軽い調子で言って、アルベルティーナは白衣を翻す。
 部下たちも次々にトラックに乗り込み、打ち拉がれる長谷川を置いて走り去っていった。

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