第12話 約束

 亨の視界にどこかで見た粘性のなにかが映ったのと同時に、頭の中の相棒が『トオル!』と鋭く叫んだ。それに答える前に体が動く。
 突然走るスピードを早めた亨に驚きながらも、美鈴もすぐに追いついて「なにかあった?」と短く訊ねる。亨はエデンの視界と木の根が出っ張った足元との両方に注意を払いながら、あまり余裕はなかったがなんとか答えた。
「マクレガーが誰かに捕まった!」
「え?」
 戸惑うのも当然だろうが、丁寧に説明できるほど余裕はなかったし、なにより亨自身、状況を把握しきれていなかった。
 エデンの視界はみるみるうちに粘性のそれに覆い隠されて、そのあとは混乱で意識が掻き乱れる。
『エデンの視界じゃこれ以上わかんないよ!』
(じゃあ他にどこ視ろってんだよ!)
『ボクにキレないでよ! アイツ、エデンを捕まえてるアイツ、どっかで見たことあるでしょ⁉ ボクはどっかで見たこれ確実!』
(どっかってどこ⁉)
『ボクにキレないでってば!』
 全面的にマモルが正論なので亨は黙り込む。マモルの方も、足元に気を払いながら他人の視界も視つつ走る亨の負担を考えたらしい、『ボクが思い出すから、トオルはそのまま走って!』と役割分担を提案する。頭の中の不毛な怒鳴り合いは一旦休戦した。
「佐倉くん、事件性があるならみんなに連絡した方がいいと思う!」
 息を切らしつつ半歩後ろを走っていた美鈴の言葉に亨ははたと気づく。そうだ、連絡。班長から常々言い聞かされている「ほう(報告)・れん(連絡)・そう(相談)」を忘れていた。
「あ、えっと、そうだよね! まずは……」
「まずはほたるたちに、それ以上近づかないように。それとSLW、須藤隊長に直接連絡するのが早いと思う、私たちが行ってどうにかなる相手とは限らない」
 亨がマモルと怒鳴りあっている間にも、美鈴は至極冷静に、亨の端的な説明から取るべき行動を導き出していた。二人は一旦足を止めて携帯電話を取り出す。電波が繋がっていることに小さく安堵する。
「佐倉くんはほたるに、詳しく説明してあげて。私は須藤隊長に繋がり次第佐倉くんに代わる」
「お願い!」
 言うが早いがそれぞれアドレス帳を開く。小野ほたるの電話番号はしばしば仕事で使うから上位に表示されていた。『プ、プ、プ』…… 呼出音に切り替わるまでの間が惜しい。
『思い出した! アイツ、この前の連続窃盗犯人! 夏休みの終わりに捕まえたヤツだ!』
 記憶の検索に集中していたマモルの声が脳内に響く。亨は眉をひそめた。
(古賀学のこと? 今ごろ留置所かどこかじゃ……?)
『とにかく視てみればわかるって!』
 呼び出し中の携帯電話に苛つくのも時間の無駄だと、亨は取調室で最後に見た狡賢そうな男の意識を辿っていく。マモルの記憶違いならかの男はここから数十キロ離れた支部の留置所にいるはずで、オリジナルの《千里眼》には遠く及ばない亨の視力ではなにも視えないはずだ。
 なにも視えないはずだった。
 古賀学の視界に、踠いて拘束から脱しようとする金髪の少女が映っている。
『ビンゴ!』
(なんで⁉ 絶対起訴になるってハヤト先輩言ってたじゃん‼)
 頭の中で喚き散らしながらも古賀の意識に《千里眼》を向ける。彼の記憶に現れるのは捜査官の制服。

『釈放だ』

 有り得ない。亨だけではない、古賀自身もそう思った。

『条件付きだがな。……この週末、異能者の娘を一人、殺せ』

 捜査官が、人を「殺せ」? 頭から血の気が引く。
 古賀にも一応の規範意識はあるようで、殺人罪なんて犯す気はないと、ぶるぶる首を振って拒絶した。

『い、いくらなんでもそりゃ……』

『怖いか。安心しろ、その件についてはお前に捜査の手は及ばない。お前さえしくじらなければな』

『人殺しなんてやったこと……!』

『お前は我々が指示した通りに動けばいい。すでに計画は進行している』

『おれは知らな……』

『”すでに計画は進行している”。今、お前に話している事実も含めて、計画の一内容だ。お前はすでに計画に組み込まれている。つまり、拒否権はないということだ』

『……断ったら……』

『お前は今夜、留置所内で急性心不全により死亡することになる。一方、我々の計画通りに事を進めれば、お前は晴れて自由の身だ。もう一度、娘に会いたいだろう?』

『……』

 古賀を通した亨の目の前で、捜査官の口から恐ろしい言葉がつらつらと紡がれていくのに、亨には視ていることしかできない。
 黙り込んだ古賀に、殺害すべき標的の写真が突きつけられる。
 生徒手帳に添付するために春先に撮影した、青い背景の改まった写真は遺影みたいだった。
 黒い制服に映える、白い肩までの髪と、すみれ色の瞳が印象的な少女の。
『ホタル⁉』
(小野さんが狙いって……‼)
 須藤から受けていた特命を、こんなところで失念するだなんて。自分がほたるから離れたばかりか、エデンも美鈴もいない中で見知らぬ土地に放り出した。捜査隊員失格だ。
 携帯電話はようやく呼出音に切り替わったけれど、応答できるはずがないとわかっていた。古賀はほたるを粘性の檻に閉じ込めて、用済みになったエデンを木の幹に叩きつけると彼女が咳き込んで動けずにいる間にその場を離れる。古賀の視界にほたるとともに行ったはずの山本が映らないのはどういうことか、膝をついたまま立ち上がれないらしいエデンは怪我をしているのか、古賀の意識からはわからない。着信音が響く携帯を、ほたるは奪われまいと胸に抱き込んでいる。
『ただ今、電話に出ることができません。ピーっという発信音の後に……』
 言い残すことは決まっていた。発信音が響くと同時に留守番電話に叩き込む。
「小野さん絶対助けるから待ってて! あと、古賀ぁ‼」
 びくり、古賀が動きを止めるのが千里眼からわかった。
 亨自身の視界の端では、電話を差し出そうとしていた美鈴が、突然の怒鳴り声に表情を固まらせている。けれど構ってはいられない。
 四割くらいは牽制で、五割は宣戦布告。残りの一割は自分への叱咤だ。
「事情は把握してるけど知ったこっちゃない‼ お前は御用だ覚悟しとけっ‼」
 留守番電話が無情にサービスを終了する。
 最後に古賀の視界に映ったほたるは、笑っていたような気がした。

  

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 連続窃盗犯・古賀学には家庭がない。妻とは離婚後音信不通。娘はいるが、古賀には育てきれず施設に預けられている。居住する場所も定職もなく、漫画喫茶やカプセルホテルを転々としながら、窃盗で得た金銭を頼りに生活していた。
 そんな、どこに逃げ出すかわかったものでない古賀学が、起訴相当とされていたにもかかわらず、一転、処分保留で釈放。
 どういうことなのか、検察官に問い合わせても回答は要領を得ない。三日ほど缶詰状態だった須藤は気怠い頭を抱えていた。
 そんな状況で飛び込んできた部下からの着信。エデンの情報によれば今日は楽しいピクニックに行っているはずの美鈴からだった。嫌な予感しかしなかったから、応答ボタンを押す一瞬、指が震えた。
「はい、須藤」
『隊長、鏑木です。事件の疑いがあります。私からは説明できないので、佐倉くんに代わります』
 美鈴はそれだけ言うと、電話口から離れた。一方的な話の切り出し方は上司として一言指導すべきところなのだろうが、結果的にそれが一番効率的であることばかりなので、現在に至るまで須藤からは指摘できずにいる。
 受話器の向こうでしばしの間があり。
『小野さん絶対助けるから待ってて! あと、古賀ぁ‼ 事情は把握してるけど知ったこっちゃない‼ お前は御用だ覚悟しとけっ‼』
 まだ幼さの残る少年の怒鳴り声がスピーカーフォンにしているわけではないだろうに随分はっきり聞こえた。古賀釈放の件が引っかかってもたついていた頭が、少年たちの目の前で起きているらしい事件に完全にシフトチェンジする。いや、より正確に言うと、古賀の件は少年たちによってもたらされた情報に吸収され一体化した。
「……トオル、なにがあった?」
『須藤さん! ごめんなさい、俺のせいです! 小野さんが捕まってしまってて、古賀は誰かの指示で小野さんを殺そうとしてて……!』
「すまん、聞き方が悪かった」
 亨は焦っていると、とりあえず目の前の事実から重要そうなものをピックアップして並べ立てる癖があるらしい。軽井沢で敵拠点から逃げ出しSOSの電話を飛ばしてきたころからその傾向は見受けられたが、こちらも要指導だ。
「整理しよう。被害者はホタル、被疑者は古賀学、古賀の目的はホタルの殺害、情報源は《千里眼》…… ってことでいいな?」
『えっと、はい…… なんで古賀、こんなとこにいるんです?』
 朝から出かけていて古賀釈放の件を知らない亨にしてみれば当然の疑問だろう。須藤の手持ちの情報も少ないが、可能な限りで説明する。
「起訴相当のはずが、処分保留で釈放になった。こっちはSLWの捜査不備か検察のミスかで大騒ぎしてる。……それで、質問を続けるが、古賀がホタルを狙ったのは…… 例のホタルの記憶の線か?」
 部屋には誰もいないのに自然声をひそめる。亨の方もなぜかボリュームを下げて答えた。
『そこまでは古賀にはわかってません。ただ、捜査官の制服を着た男に脅されて、釈放してやるから小野さんを殺せって…… 指示通りに動かないと殺すとまで言われてました』
 裏で手引きした人間がいる。そしてその人物は、ほたるたちのプライベートな予定を把握していた。須藤の頭に、数人の関係者が思い浮かぶ。寮生から外出届を受け取ったであろう寮母、ほたるたちジュニア隊員と懇意にしている捜査官や、……
「支部長」
 エデンが「おじさま」と呼び慕う神崎修。あの男ならば検察官個人を動かすことも可能だろう。なんと言ってもあの男は、地下に強力な異能者からなる私的部隊を擁している。その構成員リストには、かつて起きた組織的詐欺事件の首謀者ともいわれる精神制御を得意とした危険能力者の氏名も並んでいた。
『支部長? 神崎さんですか?』
「エデンと支部長は個人的な付き合いがある。ひょっとしたらって話だ。ま、証拠なんて残さないだろうけどな」
『俺が視たら一発じゃないですか?』
「お前の能力は一般には秘密だから証拠としては使えない」
『ちぇ……』
 もちろん亨が支部に戻ってきたら視てもらうつもりではいるが、せいぜいエデンを神崎から遠ざけるくらいのことしかできない。しかし、ほたるに関してのみいえば時すでに遅しという可能性すらある。
「まったく、どうしてホタルから離れたんだ……」
 亨だけではない、美鈴もエデンもそうだ。まあ、美鈴とエデンが揃ってほたるから離れたというくらいだから余程のことがあったのかもしれないが、だからといって簡単に流してはいけないところだ。
『あの…… ごめんなさい……』
「理由はあとで聞く。とりあえずそちらに適任者を派遣するから、そいつらの指示に従うこと。もしかしたら、もう着いてる頃かもしれん」
『適任者?』
 敵の目的がほたるの記憶、つまりは〈緋の心臓〉であれば、すでに結晶型能力者の実在を知っている第一部隊の彼らを先に派遣するべきだろう。

  

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 毎月の最後の週末は、一緒にコーヒーを飲むこと。

 別に路地裏の隠れた名店のコーヒーみたいな高尚なものではない、高校生の頃は缶コーヒーだったし、大人になった今でもコンビニのコーヒーだ。それでも、八年も前の約束を一度も欠かさずに守ってくれていることが嬉しい。
 登山道の前のコンビニでホットのコーヒーを二つ買って、彼女は一つを隼人に押し付けたあと、黙って頂上への道を歩き始めた。隼人はちびちびとブラックのコーヒーを味わいながら彼女の隣を歩く。
「いやー、たまにはいいね、こうやって自然の中でコーヒー楽しむのも」
「そうね」
 美雪も行儀悪く歩きながらコーヒーを楽しむ。美雪の方はミルク入りで、砂糖は入っていない。昔からそうだった。
「でもさ、山でコーヒー飲みたくなったってだけじゃないだろ? 美鈴ちゃんが遊びに来てるところをわざわざ選ぶなんて。それともアレか、もしかして弁当につけ忘れた箸でも届けに来たわけ?」
「私がそんなつまらないミスをするとでも? 私は美鈴のお弁当に箸を入れることも、デザートのフルーツにピックを刺すことも、フライドポテトのケチャップをつけることも、一度だって忘れたことないわ」
「プロの仕出し弁当屋でもどれか一つくらいはミスってそうなんだけど。ちなみにエビフライにつけるタルタルソースは、まさかお手製だったりする?」
「あの子、タルタルソースは苦手なの。だから入れない」
 どんだけ妹好きなんだよ、と苦笑したら不機嫌な視線が突き刺さる。
 でも、普段の態度からしたら、実は妹をこんなに可愛がっているだなんて、ギャップが大きすぎて考えられない。しかも、その妹にはたぶん、姉がずっと妹を見てきたことすら気づかれていない。
「美雪さぁ、もうちょっとわかりやすく好きだって伝えられない? 美鈴ちゃん、ずーっと萎縮してんじゃん」
 美雪は呆れたみたいに溜め息を吐いた。
「私が美鈴を嫌う理由なんてないじゃない。どうして萎縮しているのか、私の方がわからないわ」
「美雪の態度からは好意が伝わりにくいんだよ。過保護だし。喋ろうとしてもいつの間にか不器用な訓辞になってるし」
「訓辞ではないわ。私個人の意見よ」
 上下関係を想起させる表現を嫌う美雪はすかさず訂正を加えた。
 しかし、意見の表明が訓辞を垂れているようにしか見えないのだから、やっぱり不器用なことに変わりはない。留学が終わって帰国すると聞いたらすぐに迎えに行くくせに。ロビーで待っていた妹の顔を見て安心したくせに。口を開けば『日本は平和だからといって気を抜かないこと』だとか『留学の経験をどうすれば実務に活かせるか考えること』だとか。お前は教員かと突っ込みたくなる。
「私、そんなに美鈴に冷たくしてるのかしら?」
 ぽつり、美雪の口からそんな疑問が飛び出したので、隼人は慌てて訂正する。
「冷たいっつーか、いや、オレとかトオルはそれが美雪のスタイルだってわかってるからいいんだけど。妹の前でもそのスタイル貫き通してるから、美鈴ちゃん的には寂しいんじゃね?」
「寂しい、ね」美雪は自嘲気味に笑った。「忘れちゃったわ」

 愛されていた記憶なんて偽りでしかなかったから、それを捨ててしまったら、同時に寂しかったことまで忘れてしまったのだと。
 週末にコーヒーを飲む約束をした、あの頃と同じ表情が一瞬だけ垣間見えた。

「……今、美雪が寂しくないなら、オレはそれでいい」
 本心だった。妹が寂しがっているのをわからなくても、構わない。わからなくたって、美雪なら美鈴の寂しさを取り除いてやれるのだし。
「……そろそろ、連絡が来る頃かしら」
 美雪は話を逸らしたがっているみたいに携帯電話を取り出した。タイミングよく着信音が鳴り響き、画面に隼人たちの上官の名前が現れる。
 すべて美雪の予想通りだったらしい。
「はい、恩田です」
『よぉ、お前たちもハイキングか?』
 隼人の耳にもかすかに届く、須藤の明るい声。
 それくらい、この山は静かだった。
「そうですね。このあと赤松も合流する予定です」
『準備が良過ぎるだろ…… ちなみに、いつから気づいてた?』
「ただの勘でしたが。古賀釈放の報道で、念には念を入れておこうかと」
『人選も素晴らしい気がするな』
「六月に私たちをお連れいただいたのも、この日のためかと考えました」
 ほたるの記憶の中に”重大な異能者”が潜んでいると、ほたるを恩田斑に迎えるとき、美雪と隼人にも須藤から説明があった。その”重大な異能者”が何者なのか、詳しくは聞けなかったが、今であれば察しはつく。
『礼を言うよ。できれば他の隊員が到着する前に、子どもたちを安全な場所へ移動させてやってほしい』
「承知いたしました」
 簡単に状況の説明を受けたあと、詳しいことは亨に直接連絡するよう指示して、須藤は電話を切った。
「なるほどね。どうせお上に揉み消される事件なんだろうけど、被害者のホタルは隠して古賀学だけ取っ捕まえろってか。須藤隊長も腹括ってるよな」
 被害者がいないのに、誘拐犯か監禁犯、あるいは傷害犯として逮捕するのだろうか。そもそも逮捕状が下りないだろうし、その後どうやって取調べを進めていくつもりなのか。もちろん隼人も美雪も、「独断で動いた」と責任を取るつもりではいるけれど、須藤はそれを知らん顔で見ていることなんてできない人だ。
「そうである以上、私たちに失敗は許されないわ」
 須藤が違法捜査の責任を追及されることのないよう、外形だけでも合法的に。そして、ほたるの記憶の中にいるとされる異能者を公にしないよう、細心の注意を払い知恵を絞って、古賀を拘束する。公権力の濫用と非難されようが知ったことではない。隼人と美雪にとっての規範は、真実を知らない多くの国民が選んだ議員たちが、互いに腹の内を探り合いながら政治的思惑の下で制定した法律ではなく、ただ一人の人間、須藤だった。
 ほたるの記憶の中に潜んでいるのは、おそらくは亨と同じ、結晶型能力者。美雪も隼人も、導き出した結論は一致していた。だから、美雪は、すでに結晶型の異能者が実在することを知らされている赤松を、サポーターとして呼び出した。
「しかし、机上の空論が現実だったと突きつけられた上に、初っ端から四人もご紹介いただけてかなり困惑したんだけど。おまけに今日、五人目がご登場する予定なんだろ?」
 ”碧の瞳” の保有者、ユーリ・クズネツォフ。
 ”白銀の脳細胞” を抱くベアトリクス・ノーチェス。
 不完全な結晶だが《千里眼》の能力を扱える高遠風音。
 そして、亨。
「いきなり四人も出てきたら五人目が出てきても驚かないわよ」
 そう言いつつも、六月に”碧の瞳”と戦って惜敗した美雪のことだ。事態の重大さは隼人なんかよりよほど理解している。
 軽口を叩きあっている間も足は止めなかったから、頂上は目の前だった。
 コーヒータイムは終わり。今回もドライな時間だったなぁと隼人は内心で苦笑した。まあ、そういうデートも悪くはない。
 空のゴミ箱に二人分の紙カップが放り込まれる。
 その音でこちらに気づいたらしい、レジャーシートの上で友人を待っていた少年が勢いよく振り返った。美鈴たちのクラスメートだわ、と美雪が呟いた。
「おーい、少年。ボーッとしてる場合じゃないぜ?」
 足取り軽くレジャーシートに近寄って、座り込んだままの少年と視線を合わせる。
「どこぞの誰かが決めたそうだ、本日ここは休園らしい。……下山するから荷物をまとめな」

 静かなのは当たり前だ。
 隼人たちが登ってきた登山路の入り口は、何者かによって鎖で封鎖されて、ご丁寧に「危険・本日入山禁止」の張り紙まで掲げられていた。

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