今日だけの音楽

第5回物書き会in山口企画・冬の闇鍋まつりにて引かれなかった幻の具材「今日だけの音楽」をテーマにしたssを書いてみる試み。


 

 披露宴は華やかだった。
 かつて憧れたあの人が、真っ白な花嫁に口づけるさまは、悔しいことに今まで見たどの彼より格好良かった。私があの白いドレスを着られなかったのはなぜだろう。一番近くにいたと思っていたのに、いつの間にか遠くに行ってしまって、今はもう手も届かない。
 余興で披露した今日だけの音楽、二人の前で笑い物になろうと思ったのは、一番近くで言ってやりたかったから。
『さようなら。そして、ざまあみろ!』
 もちろん直接伝えたわけじゃない。英語の成績だけは伸びなかったものね。
 黒い帽子とギターを抱えて、アメリカのブルース・シンガーになりきって、思い切り叫んでやったわ。
 歌詞に顔をしかめる人もいたけれど、知るもんか。
 あんな娘ばっかり追いかけて、私の視線に気づかないフリを続けて。
 私なら、ミルクのように甘く、クリームのように柔らかく、そしてアルコールより熱く、あなたを愛してあげるのに。
 いつかこの歌を、泣かずに聴ける日がくるのかしら。
 いつか、自分のためだけに歌える日が来るのかしら。

 今日から花嫁と遠い土地で暮らすあの人。
 空っぽになってしまった兄の部屋。
 さよなら、私の愛しい日々。

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