エピローグ 茶番

 

 ……かわいそう。
 これまでの十五年で積み上げてきたものを、残虐な魔王の指の一振りで、砂のお城が波にさらわれるようにあっけなく失うなんて。
 高遠風音は、亨の意識を追いながら、他人事にしては妙な緊迫感をもって、けれどやはり他人事なのでわりと冷淡に同情した。
 自分が同じ立場に立っていたとしたら、どうするだろう。考えるだけでぞっとした。
 悲しくて、怖くて、きっと立ち上がれない。
 だから、亨の意識に「恐怖」が見当たらないことに、風音はまず驚いた。あまり親身になれない自分が冷淡なのではなく、見据えている彼の意識が冷静すぎるのだ。そして、自分から他者に共感する心のようなものが欠けてしまったわけではないらしいことに、少しだけ安堵した。
 亨の意識はすでに状況把握と問題解決へと集中している。
 でも。
「魔王がかけた呪いに、異能者としては半人前以下の、貴方が打ち勝てるの……?」
 無理だ。
 彼にはもう、魔王の玉座へ近づくことすらできない。その資格は人々の記憶とともに失われたのだから。SLWが、正体不明の部外者を重要参考人に近づけることなどあり得ない。
 仮に魔王への謁見が叶ったとして、未熟な彼には為す術もない。叩き潰されるのが関の山だ。
 ――だったら。
「……少し、席を外します。何かあったら連絡をください」
「あ?」
 訝しむユーリを置いて、レディ・ハートのビルから飛び出す。

 

 どこにも行く当てのない、誰にも助けを求められない子がいる。

 

 だったら、誰か一人くらい助けに行かなきゃ、おかしいじゃないか。
 

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