魔法使いの交響曲

魔法使いの交響曲

エピローグ 緋

 そっと受話器を降ろして、ほうと息を吐く。 そうしてすぐに頭を切り替えて、透明な扉を押し開く。 とある大学の前の電話ボックスから出てきたのは、腰まで届く髪を背中に流した、金色の瞳の、背の高い青年。暑くなり始めたにもかかわらず、質の良い黒の...
魔法使いの交響曲

第16話 勇気

「ナマエってなあに?」  亨の問いかけに、見えない友人は不思議そうに問い返した。 亨は少し考えて、「君は人からなんて呼ばれているの?」ともう一度訊ねた。「君」「それは名前じゃないよ。もしかして、名前がないの……?」 うーん、そうなの...
魔法使いの交響曲

第15話 問題は

 白い死神のような男の攻撃を躱しながら、美雪は自分の攻撃が当たらないことに焦っていた。 全方向からの攻撃は功を奏さず、あっさりと受け止められた。 それに対応して美雪はすぐに頭を切り替え、自分の血から煉り固めた螺子に、新しく四つの命令を下し...
魔法使いの交響曲

第14話 未練

 十六年前。長谷川邦彦は、SLWが発足する少し前から、当時は異能者研究の聖地と言われた、ドイツの片田舎のとある研究室に留学していた。 彼の指導者として指名されたのは、サリヴァン博士を始めとして変わり者と評される人間が多かった研究室内でも、...
魔法使いの交響曲

第13話 碧

 逃げてきたままの検査着から地味な夏服に着替えて出てきた亨に、正はキッチンから、「服のサイズは合ってるかー?」と気の抜けるような声でのんびりと訊ねた。 亨も「うーん」と普段通りの調子で答える。「靴ある?」「ああ、用意しておいた。靴擦れして...
魔法使いの交響曲

第12話 千里眼

 昼休み、風音の制服の胸ポケットの中から、ブブブと、携帯が震える音が響いた。「風音、メール? 電話?」「電話。……ちょっと出てくるね」 風音は発信者を確認すると、談笑している友人たちから離れて、人気のない階段の踊り場に駆け足で向かう。 ず...
魔法使いの交響曲

第11話 白銀

 時は、佐倉亨誘拐事件から、一ヶ月ほど遡る。 佐倉正は、地下三階でエレベーターを降りると、スーツの襟を正した。 ここは、一般の社員は立ち入ることを許されない聖域である。(オレ、なんかヘマしたっけ……?) 急に呼び出された正は戸惑いながらも...
魔法使いの交響曲

第10話 カボチャ

 二日ぶりに登校した風音に、友人は待っていましたとばかりに駆け寄ってきた。「風音、また体調崩したんだって? 大丈夫?」「うん、今回のは軽かったみたい」 風音はにっこりと微笑んで答える。 №1の指示に従って任務にあたるときは、学校を休まなけ...
魔法使いの交響曲

第9話 この力

 退院した亨には、気づいたことがあった。  あやのが不自然に、護がいなくなったことについて触れないのである。 どこかに仕舞われてしまった護の茶碗やコップ。 亨の目の届かないところに移動されたアルバム。 閉めっぱなしの仏壇の扉。 亨は...
魔法使いの交響曲

第8話 あの日

 あやのは、亨が目を覚ましたことに気づき、「亨」と名前を呼んだ。  亨は虚ろな目をしていたが、しばらくして目の前のあやのに気づいたように、「おかあさん」と、声にはならなかったが、唇を動かした。 あやのは泣きそうになるのをこらえて、「...
タイトルとURLをコピーしました